No. 24 リフォームこそ別世界への扉

K邸

設計:木村貴一 木村工務店

 近頃、思うことだけれどリフォームを見ることは新築を見せて貰うより楽しいような気がする。既にある空間が設計者の勝手な思いを邪魔をするから、単純に一つの価値観で空間が作れない。違う価値観がぶつかり合う。異なった世界観の人が作った空間を別次元の世界へ変えていかなくてはならない。だからコンセプト、アイデアがないと何でもない物になってしまう。しかし、こだわりがあって、力と知恵があれば大抵の物がすばらしいものになる。すくなくともぼくが見た物はなぜかみんなすばらしい。できることは多くはないのかもしれないけれど、全部勝手にできる新築とは違った異色の世界がうまれる。
 アイデアの飛躍、離陸をぎりぎり求められるからだろうか。
 新しい世界を可能にしなければ意味もないことだから設計者としては必死になるのだろう。ぼくがリフォームを見るのが好きなのはそういうことかもしれない。

 外観は以前の改修から変えて無いという。町並みの風景の変化を好まない木村さん流のやり方がまずここにでている。

 この家、3軒が最終的にはつなげられている。その3つをつないだところに中庭がある。小さな町屋がつづくこの辺りでは珍しいかもしれない。


 まず、玄関。入ったところの土間は洗い出し。その次がおもしろい。角材風に用意された石が置かれている。そこが靴脱ぎ。さらに上がると廊下。板を切り離して止めがない。建築的な知識がないのでこれをなんというのかしらないけれど、民家風。素材の無垢な存在感が現れて、表現が強い。この連続した玄関の仕掛け、材質の繊細な選びは悪くないでしょう。

←写真(2)玄関

 玄関を入った廊下。新築部分はこの廊下の中央に増設された階段。フロストグラスとアクリル波板で囲われている。これにはじつは意味がある。この階段、外の風が流入する半戸外状況。でも、スパッと庭を見せないようにしてある。
 上がりきると廊下は半戸外。階段の両サイドに椅子が置かれていてリゾート感覚。陽差しを浴びながら本も読めるし、庭の緑を楽しむこともできる。船のデッキ感覚かもしれない。

←写真(3)

←写真(4)

←写真(5)

←写真(6)

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 廊下の一方につながる部屋がリビングルーム。天井を剥がして断熱をいれ、その下を袋状の天幕で包んでいる。家の性能が変わったという。正面の窓の変化は内側のみ。外観は以前のまま。外からはリフォームの跡は見えない。ジャズが鳴っていた。

←写真(9)キッチン

←写真(10)リビングの吹き抜け

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 階段室から、リビングの反対側に行くとダイニング、キッチン。キッチンまわりはかなり個性的な配置になっている。洗い場と火床が別。火床が低い。使い良さそう。水を使う場所はかなり高い。厳密に使い勝手が考えられている。カウンター前は朝ご飯用だろう。

←写真(12)

←写真(13)

 この部屋のポイントは庭側の窓の窓枠。大きな窓は完全に壁の中に収納されるようになっている。開けきると窓枠が消える。風が舞う。庭の緑と一体になって戸外感覚。これでだめ押し。一挙にこの家が好きになる。じつに変化のあるプランだ。

←写真(14)

 ダイニングは壁の向こうにある。キッチンとは壁が立てられているけれど、両サイドから入れる。回遊式にもなっている。8人は座れるテーブル。暮らしが設計のなかに見事に収まっている。機能的にもすばらしけれど、家族の暮らし方が読み込まれたリフォームがここにある。新と旧の組み合わせに美しさがある。

←写真(15)

 止めは新設されたバスルーム。庭に突きだして増設されていて、周辺三方向はフロストグラス。扉を開けて撮るべきかどうか悩んだけれど、写真の現像がが上がってきたところで、やっぱり締めて撮って正解だったかなと自分では思う。外の空間がフロストを通して感じられて、自分では成功の写真と信じてます。

←写真(16)


 設計の木村さんは工務店を経営しながら設計もやっている人。テレビのビフォア・アフターに出て「匠」と呼ばれ、2回もあの番組につきあっている。とはいえそんなメディアに載って浮かれてしまう人ではない。現場が好きな、まさしく現場の人。
 このリフォームを拝見して、設計一本でやってきた人かと思ったけれど、現場で工夫していくことが楽しいらしい。ようするに手が動き、からだが動き、頭が動いてしまう人だ。

家族構成=夫婦+子ども2人
敷地面積=約330m2
建築面積=123m2
延床面積=227m2
改装部分床面積=186m2(増築7.1?Fを含む)
構造・規模=木造2階建て  
改築時築年数=50年